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コンチネンスケアwith TENA 処方事例集

Nr.07

Omasong for Alla

言葉にならない「トイレに行きたい」を見つけた。小さなサインが夜間安眠と皮膚改善につながった事例

「Omsorg för Alla」は、「みんなのケア」を意味するスウェーデン語です。「Omsorg」には、「相手の尊厳や思いを大切にした継続的な思いやり」という意味が込められています。本紙では、TENA を活用して、すべての人の「尊厳(Dignity)」を大切にするケアを実践しておられる「ケア処方事例」を紹介します。

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ご利用者プロフィール

F さん(女性)80 代 要介護3。理容師として夫と理容店を営み、大病もなく娘2人を育てたF さんは、活発で人当たりの良い性格で趣味はカラオケ、編み物、山歩き。引退後、夫婦で公民館などで歌や手品で慰問活動を行っていましたが、2013 年頃から物忘れが目立ち、アルツハイマー型認知症と診断されました。夫の体調不良が重なり、他施設でのショートステイを経て、2021 年に恵峰園様へ入所されました。

脳梗塞後遺症の夫と二人暮らし
介護者不在となり入所へ

F さんは、脳梗塞の後遺症がある夫と二人暮らしをしていましたが、2021 年頃から徘徊が増え、介助なしでの生活が難しくなって恵峰園様に入所されました。入所当初は立って歩くこともできましたが、1 ヶ月ほどたったころから膝の痛みを訴えるようになり、車いすでの生活になりました。
認知症が進行していたこともあって、「何をされるのか分からない」という不安が強くなっていたF さん。スタッフが近づくだけで逃げてしまい、何とかトイレに誘導しても、そこがトイレであることを理解するのが難しい日々が続きました。
日中はリハビリ用の紙パンツとパッドを、夜間は紙パンツと夜用パッドを使っていましたが、排泄は安定していませんでした。尿失禁が多く見られたほか、週に1 ~ 2 回ほど、部屋の隅やベッド上などで便失禁してしまうこともありました。水分摂取量も不足がちで、甘い飲み物や味噌汁は好んで口にされるものの、入所当時の摂取量は450 ~ 500ml ほど。目標とする摂取量の半分ほどしか飲めていませんでした。食事は一人では難しく、ムース食を4 ~ 5 割程度、何とか召し上がることができる状態でした。

「そわそわ」がトイレのサインだった
繰り返しの観察が自立支援につながる

F さんの排泄ケアを劇的に変えたのは、ご本人の「ちょっとした」サインを見逃さなかったことでした。入所当初に行っていた午前・午後の定時トイレ誘導の際に時折、車いすから立ち上がろうとされるタイミングがあったり、早朝4時から5時の間に自ら脱衣して失禁されたりすることが何度かありました。こうした様子がたびたび見られたため、スタッフは排泄と関連があるのではないかと考え、24 時間の排尿記録データと照らし合わせながら確認していきました。

もともと日常生活の中で脱衣や手遊びといったしぐさは見られたF さんでしたが、車いすから立ち上がろうとすることはあ
りませんでした。まさに「そわそわして立ち上がろうとする」、その動作こそが、F さんのサインだったのです。そこで、排尿表をもとに排尿の多い時間帯や立ち上がり、歩き出そうとする仕草が見られるタイミングでまずはトイレが見える位置まで誘導し、視覚的に認識していただくことから開始。しだいに、排泄したいタイミングでは自ら中へ入る場面が見られるようになりました。この対応を繰り返すことで、トイレと排泄が結び付き、自らトイレへ向かう行動が増えていきました。

そうした取り組みを繰り返しながら、トイレ誘導の時間も、入所当初の定時からご本人にあわせたタイミングに変更していきました。トイレにお連れすることはスタッフで対応できます。しかし、車いすから立ち上がり、服を脱いでトイレに座って排泄し、もう一度ベッドなどに戻るという動作は、ご本人の意思と協力がなければ難しいものです。だからこそ、ご本人のタイミングを注視することが大切になります。ご本人のタイミングでトイレへ向かえるようになると、介助への抵抗も少なくなります。結果として、ご本人の安心感につながるだけでなく、スタッフの介助負担軽減にもつながりました。

気づきで終わらせない
小さなPDCAと情報共有の力

恵峰園様では、10 人1 ユニットに対し、日勤・夜勤を合わせて15 人のスタッフが配置されています。そのケアのかなめとなっているのが記録と情報共有です。入所時のアセスメントは、失禁を含めて尿量と時間を記録。ご本人の意向、生活パターンなど含めて記録を分析し、ケアプログラムを設定。2 週間から1 か月間で評価しています。そのうえで、日々の改善点については、短めの期間と小さめの目標を設定しながら、PDCAを回していくようにしておられます。

さらに大切にしておられるのが、「スタッフ間の情報共有」です。ケアの中で感じたことを「思ったらすぐに話せる」雰囲気を大切にし、日勤と夜勤のシフトが変わる際にも直接申し送りをする。日誌も活用しながらスタッフ同士が連携し、互いの負担を軽減しながら施設全体でよりよいケアを実現する体制を整えておられます。


ご活用いただいているTENA ウォッシュクリーム。
〔保清〕〔保湿〕〔保護〕の3 つの役割を一本に

好きな味から広がった改善
飲む・食べるを支える工夫

そのサイクルの中でF さんの場合には栄養と衛生面の改善にも力を入れました。入所当初は水分摂取量が少なく、ほうじ茶もほとんど飲めませんでした。ケアをする中で甘い飲み物が好きであることが分かったため、ほうじ茶に砂糖を加える工夫をしたほか、栄養補助剤を追加。徐々に積極的に飲めるようになっていき、1 日1000ml を目標に700 ~ 750ml を維持できるようになりました。食事面でも味が濃いものを好まれることから、濃い目のものからご提供するようにしたところ全量摂取できるように。そのほか、残っている歯を大切にするために食後には歯磨きもしっかりするといった取り組みも進めています。ご利用者ごとに複数の選択肢を持ち、うまくいかなければ早めに切り替える。それは、排泄ケアだけでなく、水分、栄養管理においても共通です。

発赤の原因は皮膚だけではない
多職種で支えた生活改善

生活状態の改善とともに座位時間が長くなったことで新たな問題が発生しました。皮膚への負担から臀部(仙骨部)に発赤、表皮剝離が見られるようになったのです。それでも、早期に発見できたことで改善もスムーズに進みました。

ベッドを体圧分散マットレスに変更し、座位・臥床時の負担を軽減。スキンケア面では、微温湯と蒸しタオルでの陰部洗浄を行っていたものを、手のひらで少し温めてすぐ使えるTENAウォッシュクリームに切り替えました。このクリームは汚れを浮かせやすく、必要以上に皮脂を落とさないうえ、保湿・保護作用もあることから手早く、より快適なスキンケアの実践に役立ちました。また、厚手で破れにくいTENA ソフトワイプも併用し、排泄介助を嫌がる時でも手早く清拭できるようにしました。

休息の取り方も見直し、仙骨部に圧が集中しないように注意しつつ、日中に横になる時間を確保。夜間も排泄介助時に、体位変換を行うといった工夫も行いました。栄養士とも相談し、タンパク質を含む栄養補助食品を導入したところ、傷痕もなくわずか2 週間ほどで完治したのです。

皮膚トラブルを防ぐためには、座位時間や休息、食事、栄養まで含めた生活全体を多職種で考えることが大切です。意思が上手く伝えられないご利用者のためにも、各職員が連携しながらご利用者の変化を敏感に感じ取る随時対応は、日々、日勤、夜勤関係なくユニットスタッフ全体で思った時に伝え合える心地よい関係性が整っているからこそ実現しています。

「一人で抱え込まない」チームケア
日々の会話がチームの知識を育てる

入所当初は不安が強く、スタッフが近付くだけで身構えたり、声をかけても拒否することが多かったFさんですが、10人の落ち着いたユニットの中で、にこにこしながら穏やかに過ごされる時間も増えました。また日中の活動が増えたことで、夜もしっかり眠れるようになるなど生活リズムも安定しています。

この改善を支えているのが、恵峰園様が大切にする「一人で抱え込まない」チームケアの考え方です。介護は担当制ですが、「担当だから一人で考える」ことはありません。困ったことがあれば「みんなで考える」。日々の何気ない会話から生まれた気づきをチーム全体で共有し、アセスメントやケアに生かすことで、誰が担当しても同じ方向でご利用者を支えられる体制を築いています。

私にとってのDignity

渋谷敦規さん(ユニット副主任)

介護という仕事では、日々の業務やその都度変化していくご利用者さんへの対応の中で、お一人おひとりの「その人らしさ」に寄り添うことは、決して簡単ではありません。思うようにいかない場面や対応に悩むこともたくさんあります。
それでもどんな状況であっても、その方への敬意を持って接することを大切にしています。その方と向き合い、その方の思いや価値観、これまで歩んでこられた人生を尊重しながら関わることが、信頼関係を築く第一歩だと考えています。そうして少しずつ積み上げていく信頼関係こそが、その方の尊厳を支え、その人らしい暮らしにつながる価値を生み出していくのではないかと思っています。
言葉を選ばずに表現するなら、それは「仲良くする」ということかもしれません。介護する側とされる側という関係ではなく、一人の人として相手を理解し、心を通わせること。年齢や立場にとらわれず、その方と同じ目線で向き合うことが、最も大切なことだと私は考えます。


落合達也さん(生活相談員)

施設に入所すると、どうしても「施設の生活」に合わせていただくという考え方になりがちです。私たちが目指すユニットケアでは、その方がこれまでどのような暮らしをされてきたのかを理解することを大切にしています。ご家族やご親族からできるだけお話を伺い、その方に合った生活を続けていただけるよう努めています。
もちろん、ご自宅での暮らしをそのままを再現することはできません。それでも、好きだったことを続けられるようにしたり、思い入れのあるものを身近に置いたりすることで、慣れ親しんだ生活に少しでも近い形で過ごしていただきたいと思っています。
そうした毎日をつくっていけることがユニットケアの魅力でもあります。これが「尊厳」という言葉の意味と合致するかどうかは分かりませんが、その方が安心して自分らしく過ごせる環境を整えていくことにつながっているのではないかと考えています。そのためには、入所時のアセスメントだけでは分からないこともたくさんあります。実際に生活を共にすることで見えてくることも多く、ご家族からのお話も参考にしながら、その方がどのような人生を歩み、何を大切にしてこられたのかを理解するように心がけています。
こうした積み重ねが、その方に合った暮らしを支え、安心して過ごしていていただける環境づくりにつながっていくのだと思います。

社会福祉法人 幸養の会
特別養護老人ホーム 恵峰園(群馬県高崎市)

お一人おひとりの思いやライフスタイルにより添い、“ その方らしく”自立した暮らしと最適なケアをご提供することを創立当時から大切にしている。2011 年TENA 導入。