コンチネンスケアwith TENA 処方事例集
Nr.06
94 歳からの再挑戦 トイレ排泄と生活意欲を取り戻した事例
「Omsorg för Alla」は、「みんなのケア」を意味するスウェーデン語です。「Omsorg」には、「相手の尊厳や思いを大切にした継続的な思いやり」という意味が込められています。本紙では、TENA を活用して、すべての人の「尊厳(Dignity)」を大切にするケアを実践しておられる「ケア処方事例」を紹介します。
ご利用者プロフィール
E さん(女性) 90 代。要介護4。新潟県長岡市出身で夫が創業した不動産業を夫婦で営み、子供を3人育てられました。人と触れ合うことが好きで、旅行や習い事にも積極的な温かい性格でした。2018 年に除雪作業時に転倒し、腰椎を圧迫骨折したことをきっかけに、リハビリ目的でやすらぎ園様に入居。その後、腎盂炎、低ナトリウム血症、化膿性脊椎炎を患って病院に入院し、2025 年に再びやすらぎ園様の認知症専門棟に入居されました。

排泄はおむつ内で
ひどい腰痛によって寝返りも打てない
E さんは、認知症専門棟に入居された当初、ひどい腰痛に悩まされておられました。ベッドで横になっていても寝返りもできず、食事も摂ることができないなど、ただただ痛みに耐えている状態だったのです。
最初はテープ止めタイプのTENAスリップをベッド上で交換しなければならない状態。昼間2回、夜間1回と1日3回、決まった時間に交換することを基本に、尿量が多い時には4回替えていました。さらに便秘がちな体質だったことから、座薬も使いながら3日間排便がなければ看護師が摘便するという日々でした。
その後、以前からの顔見知りの職員と再会したり、リハビリ職の応援を受けたりしながら、ご本人がリハビリを続けられ、次第に腰痛が改善していきます。そしてついには、座位や立位も保持できるように。「体が楽になった」とご本人が実感するにつれて、少しずつ全身状態の回復への兆しが見え始めていました。
トイレを目指すきっかけ
励ます声が、生来の感情を呼び起こす
Eさんのリハビリは、座位訓練から開始し、腰痛の軽減に合わせて立位訓練、平行棒内での歩行や段差昇降へと段階的に行われました。そして立位が安定したころから、「トイレに行きたい」「車いすに座りたい」という意思表示をされるようになります。それをきっかけに、Eさんのトイレへの挑戦がスタートします。
もともと便秘気味で、最初は座薬を使用した時だけトイレに誘導することから始めました。このころは、便意はあるものの、尿意はまだ訴えがない状態でした。また、トイレに行っても出ないこともしばしば。それでも、ご本人が素振りを見せたときには、タイミングを逃さずにトイレにお連れすることを徹底して行いました。「もう少し機能が回復すればできるようになるかもしれない」と可能性を信じて見守る。そんな時期でした。
やがて車いすを自分で漕げるまでに回復すると、自らトイレへ向かおうとする姿も見られるようになります。そこで、「ご本人が行きたがっているなら回数を増やそう」と、排尿時のトイレ誘導も開始。尿意がはっきりしない中でも、継続して誘導しました。
その過程でスタッフは、「車いすも漕げるようになったね」「こんなこともできるようになったね」と、できるようになったことを一緒に喜び、励まし続けました。面会のたびにご家族からも「元気になったね」と声をかけられるようになり、その励ましはE さんの「もっとできるようになりたい」という意欲を育み、自らトイレを目指す気持ちにつながっていきました。
身体機能の回復に合わせておむつも見直されました。ベッド上での生活を前提にしたTENA スリップからトイレで着脱しやすいTENA フレックスへ変更。このころには食事も完食できるようになり、日常生活での活動量も増えたことで腸の動きも改善します。これによって3 日間排便がないと座薬を使用してベッド上で摘便を行っていた状態から、座薬を使わず、下剤の調整によって自然にトイレで排便できるまでに回復しました。
「誰が担当しても同じケア」を目指す教育体制
標準化が質の高い排泄ケアを支える
E さんの回復を支えたのは、スタッフ一人の経験や勘ではありません。やすらぎ園様では、担当者が変わっても質の高い排泄ケアを提供できるよう、「誰が担当しても同じケア」を目指した教育体制を整えています。
その中心となるのが、排泄委員会が掲げる「質の高い排泄ケアの統一」です。新人・ベテランを問わず全職員がTENA マイスター試験を受験し、知識や技術を定期的に確認。TENAアドバイザーのサポートも受けながら、実践的な指導や勉強会を重ねています。また評価方法もユニット単位からスタッフ一人ひとりの技能をTENA のコンチネンスケアスコアカードでチ
ェックする方法に改め、苦手分野を可視化し、重点的に指導した結果、家族への説明力も向上しました。
「自分なり」ではなく、誰もがご利用者にとってより良いケアを実践できること。それが、やすらぎ園様が目指す排泄ケアの標準化であり、一人ひとりの尊厳を守る土台となっています。

小さな変化を見逃さない
多職種で支えるチームアセスメント
「質の高い排泄ケアを実現するためには、技術の標準化だけでなく、多職種で情報を共有しながら最適なケアにつなげることも大事」という考えのもと、Eさんのケアも改善されていきました。「今日は少し長く立てた」「自分からトイレへ向かおうとした」――。一人では見過ごしてしまうような小さな変化をチーム全体で共有し、次のケアへとつなげていったのです。そのケアを支えたのが独自の職員配置と情報共有のシステムです。
やすらぎ園様では、各部署にリハビリ職員を配置し、介護職と日常的に連携できる体制を整えています。「トイレでうまく座れない」「立ち上がり方を工夫できないか」といった現場での気づきをその場で相談し、ご利用者の身体機能に合わせた支援方法を一緒に考えます。介護職から「この動きならできるのではないか」と提案することもあり、職種の垣根を越えた双方向のやり取りが、ご利用者の可能性を広げています。そうした連携は、看護職や栄養士との間でも行われています。
また綿密な情報共有は電子記録システムによっても支えられています。介護、リハビリ、栄養など各職種がタブレット端末を使って生活の様子はもちろんリハビリの成果や栄養面での評価、気づいたことなどを記録。ケアに関わる全員が同じ情報を確認できるようになっています。重要な情報だけを掲載する「申し送り機能」も備え、入力すべき項目もしっかりルール化されているため新人職員でも迷うことなく必要な情報を入力し、活用できるメリットがあります。また勤務開始時には必ず前日の状況などをチェックするように義務付けることで、より体調などにあったケアができるよう工夫しておられます。
30 年以上受け継ぐ「一人ひとりを大切にする」
理念が育む、尊厳ある排泄ケア
現在では、1日3~4回のトイレ誘導で排泄できるまでに回復したEさん。夜間にもご自身のタイミングで目を覚まして、「トイレに行きたい」と起きてこられるなど、自然な生活リズムを取り戻しておられます。それに伴って、元来の明るく社交的なお人柄がうかがえる場面も増えています。髪型をおしゃれに変え、明るい色の服装を楽しんだり、レクリエーションの時には一番前の席で歌を歌ったり、塗り絵や体操に積極的に取り組むなど、本来のご本人らしい日々を送っておられます。
やすらぎ園様が30年以上大切にしてきたのは、「一人ひとりを大切にする」という想いです。その考えは、ご利用者への接し方だけでなく、排泄ケアにも深く息づいています。スタッフの皆さんは、すべてのご利用者に向き合い、自分の家族にも受けてもらいたいと思えるケアを提供することを基準としています。
こうした理念は、家族への支援にも表れています。排泄の自立は生活の質を高めるだけでなく、家族の負担を軽減し、在宅復帰への後押しにもなります。そのため、在宅復帰を見据えて、家族への説明力を高める研修やロールプレイなどにも力を入れておられます。
94 歳のE さんが再び自らトイレへ向かい、家族との外出や日々の楽しみを取り戻した姿は、「一人ひとりを大切にする」という理念が形になった一例です。教育による技術の標準化、多職種の連携、そしてご利用者を一人の人として尊重する姿勢。そのすべてが結びついた先に、E さんの明るい笑顔がありました。
私にとってのDignity

私は入社した時から、ずっと意識し継続していることがあります。それは、「ケアさせていただいている」という気持ちを忘れないことです。ご利用者から「いろいろしてもらって悪いね」と声をかけていただくこともありますが、私はそのたびに、「勉強させてもらっている」「成長させてもらっている」という気持ちを持ってケアさせていただいています。
また、一つひとつケアが終わった後には、必ず「ありがとうございました」とお伝えています。これは単なる仕事として行っているのはなく、ご利用者との関わりに対する感謝の気持ちを表すためです。
介護は一方的に支援するものではありません。私たちがご利用者を支えているように、私たち自身もご利用者から多くのことを学ばせていただいています。だからこそ「ケアをさせていただいている」という謙虚な気持ちを持ち続けることが、ご利用者の尊厳を守ることにつながるのだと思います。これからも、感謝と謙虚さを忘れずに、ご利用者と向き合っていきたいと思っています。

どのような状態の方であっても、一人の人として接していきたいという思いを強く持っています。寝たきりで自力で食事を摂ることが難しい方や、日常生活のほとんどで介助が必要な方、意思疎通もままならない方であっても、私より長い人生を歩み、多くの経験を重ねてこられた人生の先輩であることに変わりはありません。そのことを忘れずにケアに当たっています。
私自身、やすらぎ園では祖母がお世話になりました。最後は寝たきりになりましたが、「職員の家族だから」という特別な対応ではなく、一人のご利用者として、そして大切な一人の人として接してくれました。私も最後まで祖母のそばで過ごすことができ、「ここで介護してもらって良かった」と感じました。
その経験があるからこそ、私もご利用者やそのご家族に「やすらぎ園に来て良かった」「最後まで安心して任せることができた」「すてきな職員さんに出会えた」と思っていただけるように、これからも一人ひとりに寄り添ったケアを心掛けていきたいと思っています。

医療法人至誠会
介護老人保健施設 やすらぎ園(新潟県長岡市)
1988 年、全国の先駆的な老人保健施設80 施設の一つとして開設。一人ひとりを大切に、ご利用者の目線に立ったあたたかいケアをという施設理念のもとサポートに取り組む。TENA 使用歴は20 年以上。


