コンチネンスケアwith TENA 処方事例集
Nr.05
「この方はトイレ排泄は難しい」を覆し、トイレでの排便と笑顔を取り戻した事例
「Omsorg för Alla」は、「みんなのケア」を意味するスウェーデン語です。「Omsorg」には、「相手の尊厳や思いを大切にした継続的な思いやり」という意味が込められています。本紙では、TENA を活用して、すべての人の「尊厳(Dignity)」を大切にするケアを実践しておられる「ケア処方事例」を紹介します。
ご利用者プロフィール
D さん( 女性) 80 代 要介護4。周囲の機微に敏感で、義理を大切にされる活発な性格です。ご自宅で生活されていた2022 年にケガをされ、脊椎損傷から急性期病院に入院。リハビリ目的でリハビリテーション病院へ転院しました。療養を重ねたものの在宅復帰が難しいと判断され、介護老人保健施設に入所後、2023 年に特養きたうら様に入所されました。

「ここでの暮らしは楽しい」と話されるD さん
両下肢不全麻痺の影響で
排便への不安をかかえる
入所段階からはっきりと受け答えができて、自分の主張もしっかりされていたDさん。認知症の症状も見られませんでした。ただ、下肢の不全麻痺が発生しており、排泄は24 時間おむつ対応。入所当時は、表情も暗く、こわばっていた状態でした。またバルーンカテーテルも挿入していたことから、臥床時などは少し動くと違和感や痛みを訴えて苦しそうに過ごしておられました。日中はTENAフレックスプラス、夜間はTENAフレックスマキシを使用するようになりました。
食事は普通食をしっかり食べることができ、水分摂取も十分にできていましたが、特に悩んでおられたのが排便です。入所前からかなりの量の下剤に頼っている状態で、「お尻が痛い」、「違和感がある」と訴えることがしばしばでした。両下肢不全麻痺の影響もあり、便意があった時でも「出そうで出ない」と訴えることが多くみられました。ご本人の希望で摘便しても、「まだ出ていないので出してください」とおっしゃるほか、一日に何度も「便のチェックをお願いします」と毎日ご希望されるなど、排便へのこだわりが強く違和感に苦しんでおられました。
そのひと言を見逃さなかった
「便が出そう」の声に耳を傾け始まった挑戦
大柄でしっかりした体格ながら上下肢の筋力が衰えてしまっていたため、移乗や移動の介助も一人では難しい状態。前施設の職員さんからも「大量の下剤を投与しても出ず、座薬を入れて入浴前の時間帯でやっと出るか出ないかという状態です」と伝えられたこともあって、当初Dさんはトイレ誘導の対象外でした。それが変わったのは「便が出そう」というDさんからの訴えにスタッフが耳を傾けたことがきっかけでした。
「どうすればご本人の希望をかなえられるか」とスタッフで話し合い、2人で介助する方針を決定。ご家族にもご承諾いただき、トイレに誘導しました。最初は苦しそうなご様子でしたが、腹部マッサージを行ったところ、便が出たのです。その瞬間、ご本人もとてもすっきりした、ほっとしたような顔をされていました。
とはいえ、膝の曲げ伸ばしにも時間がかかるご本人の負担も考慮し、まずは1日1回をめどにトイレ誘導を開始することになりました。その後もトイレに行けば毎回排便があるとはいきませんでしたが状況は次第に改善。下剤を併用しながら3日に1回は出るようになり、「トイレに行きたい」という発言も、「出そうだから行きたい」とおっしゃるように変わっていきました。トイレでの排便を後押ししつつ、水分は毎日1200cc から1500cc 摂取を基本にしました。
おむつは当初、テープ止めタイプを使用していました。その後、トイレでの着脱がしやすいTENAフレックス、そしてより下着に近いTENA コットンスペシャルとコンフォートミニの組み合わせに変更しました。移行中にはもちろん、「便が漏れたらどうしよう」という不安もありました。そこで医務とも連携しながら酸化マグネシウムなどの下剤の量を少しずつ調節し、徐々に移行していきました。この取り組みを続けられた背景にはご施設内で、まずは現場で試してみて、ご本人はもちろんスタッフ間でも成功体験を共有しながら試行錯誤を続けていくという方針や、ご利用者のためになることはまず「やってみよう」という共通認識が共有されていたことも大きかったといいます。
当たり前をあきらめない
「そうだ! トイレに行こう」
社会福祉法人清栄会には、きたうら様を含め3 施設あります。合同のCST 会議で取り組む3 施設共通の目標として、2024 年初頭スローガンに「そうだ! トイレに行こう」を掲げました。トイレに行くことは本来、生活するうえで当たり前のこと。ならば排泄ケアではおむつから下着への移行を支援し、ご利用者が気持ちよく過ごせるようにしようと考えられたものです。きたうら様ではケアの目標を、トイレ誘導ができるご利用者は「TENAコットンスペシャル」を使うと定め取り組みを開始しました。ご利用者の体の動きや活動性を維持できるだけでなく、おむつ中心の生活から下着に近い生活に変わることで、ご本人の自立意識や自信の回復にもつながり生活の質も向上します。おむつ交換中心のケアから、トイレでの自然な排泄へと移行する大きな後押しにもなるとの期待がこめられました。
きたうら様では、この方針導入前には50%程度だったトイレに座れる人の割合が80%に上昇。スタッフの間にも「まずはトイレ」という意識が根付き、自発的に「お試し」でトイレ誘導を行う文化も生まれました。もちろん、「この方は難しいのでは」という意見がでることもあります。そんなときでも、「どうすればトイレに行けるようになるか」を常に話し合い、ケアの質と現場の負担のバランスを取りながら挑戦し続ける。その成功と失敗の体験を他の施設とも共有することで、法人全体の排泄ケアの改善と質の向上にもつながっています。

できない理由より、どうしたらできるか
現場発の2人介助体制
トイレ誘導時の2人介助を実現することは、どのご施設でもなかなか難しいのが現状です。きたうら様ではこの課題を、手が空いた時に行うプラスアルファの業務ではなく、メイン業務と位置付けて、現場主任がスケジュールを組むという発想の転換で解決しておられます。アセスメントをもとにご利用者がトイレを希望する時間帯には2人で対応できるように人員を配置する。あるいは食後などスタッフの数がそろっている時間帯を選んでトイレ誘導をするなど、ご利用者とスタッフの様子を見ながらスケジュールを組んでいきました。スタッフにも「この時間はトイレ誘導がメイン業務」だと意識づけることで、「トイレは職員2人で対応するもの」という意識が当たり前になっていきました。ご利用者から「トイレに行きたい」と訴えられることもあれば、そうでないこともあります。そうでない方には、スタッフがアセスメント結果などを参考にしながらタイミングをはかってお声がけをし、排泄を促す工夫も取り入れています。
トイレが自信を取り戻してくれた
「自分で決める」が生み出した変化
Dさんの排便のサイクルはその後も、劇的に改善していきました。現在は食後や入浴前に「トイレに行きたい」とおっしゃることが普通になり、トイレに誘導する回数も1日2回程度で安定しています。そしてなにより、座薬や摘便、浣腸が不要になり、トイレで自力排便ができるようになったのです。
その後、日々の生活の様子もめきめきと変化していきました。本来の前向きな性格を取り戻し、失敗してもトイレでの排泄をあきらめず、毎日トイレに行けることが励みになり、自信となったことで、今ではとても表情豊かに過ごしておられます。最近では、面倒見の良い性格も相まって、他のご入居者の意見を職員さんに伝えるグループのまとめ役も果たしておられます。
入居時には「無理だろう」と思われる方でも、ご本人の声に耳を傾けてまずは「やってみる」。Dさんが笑顔とバイタリティーを取り戻した背景には、「トイレに行く」という当たり前のことを大切にしながらチャレンジを続ける、スタッフの皆さんの試行錯誤の積み重ねがありました。
私にとってのDignity

日々のケアの中では、思うようにいかないことも多いのが実状です。でもその中で、尊厳を守るうえで特に大切なのは、排泄における自立ではないかと思うのです。排泄は生活における様々な要素の中でも、あまり多くの皆さんに知られたくない、恥ずかしさが伴う部分です。だからこそ、おむつだけではなく、トイレでもできるようにして差し上げることを大切にしたい。それを実現するために、お一人おひとりの声に耳を傾け、その方に合ったケアを提供していきたいと考えています。

当法人の理念である「生きがいを感じ、自立を目指した生活を送っていけるよう支援する」は、私にとって介護の基本となっています。そのうえで、自分なりに大切にしているのは「自分のことは自分で決められる」ということです。
私たちも普段の生活の中で、毎日たくさんの選択をしながら暮らしています。何を食べるか、何をするか、どこへ行くかなど、小さなことを含めて選択の連続です。それはご利用者も同じだと思います。
例えば、「少し気持ち悪いからトイレに行きたい」とご本人が希望され、実際にトイレに行くことができた。それだけでも、ご本人が自分で考え、自分で決めたことを実現できたということです。私たちの役割は、そうした思いや選択をできる限り尊重し、ご本人らしく生活できるようにお手伝いしていくことだと思っています。
人生の最後の瞬間まで自分で決められることがある。一つひとつの選択の積み重ねをサポートすることが、ご利用者の尊厳を支えることにつながるのだと感じています。

相手が何を考え、何を感じているのかを理解することはとても大事なことだと思っています。主任という立場は、施設内の空気を感じ取りながら、現場の中心にいて、ご利用者さまと職員の間をつなぐ役割だと思っています。双方の思いを大切にしながら、より良いケアにつながるよう、どこで折り合いをつけるべきかを常に考えています。
ご利用者さまを大切にするという理念のもとで働いている当施設の職員は、一人ひとりがしっかりした考えを持ち、自分の意見も率直に伝えてくれます。だからこそ、「どうしたらできるだろう」「もっと良い方法はないだろうか」と、みんなで話し合うことを大切にしています。
ご利用者さま本位のケアを目指していても、それを一方的に伝えるだけではうまくいきません。職員それぞれの意見や考えにも耳を傾けながら、みんなが納得できる形を探していく。その積み重ねがより良いケアにつながるのだと思っています。

社会福祉法人清栄会
特別養護老人ホーム きたうら(茨城県行方市)
「そうだ!トイレに行こう」をスローガンに掲げ、ご利用者が快適に過ごせることを目的にトイレ排泄を支援。その実現に向けてTENA コットンスペシャル+コンフォートの活用を進めている。
2021 年TENA 導入。


