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コンチネンスケアwith TENA 処方事例集

Nr.04

Omasong for Alla

入居者様の声に耳を傾け自律排泄を実現した事例

「Omsorg för Alla」は、「みんなのケア」を意味するスウェーデン語です。「Omsorg」には、「相手の尊厳や思いを大切にした継続的な思いやり」という意味が込められています。本紙では、TENA を活用して、すべての人の「尊厳(Dignity)」を大切にするケアを実践しておられる「ケア処方事例」を紹介します。

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ご利用者プロフィール

Aさん(女性)98歳 要介護度5。おだやかな性格で、70歳まで会社に勤め、畑の世話もしていました。2014年に認知症を発症し、徘徊行動が激しくなったことから施設に入居。その後、体調の悪化により入院してベッド上の生活となりましたが、体調の改善によりきのこ荘に入居されました。

小さな訴えを聞き逃すことなく
失敗を恐れずトイレ誘導を実行

寝たきりの状態できのこ荘様に入居されたAさん。病院入院前は車椅子移動で、食事は自分で食べられていたそうですが、入院以来急激に体調が落ち込み、入居時にはバルーンカテーテルを留置した寝たきりの状態で、声掛けに対しては時々短文での返答がみられる程度でした。
病院からの申し送りでは尿意、便意はないとのことでしたが、しばらく経った頃からスタッフに対して「便所に行きたい」と言うことがありました。スタッフで情報を共有して注意深く見守っていたところ「便所」という言葉を発する様子が何回か確認できました。そこで「尿意、便意を伝えたいのではないか」と考え、トイレにお連れしてみようということになりました。
ケアマネージャーとも相談をしながら検討する中で、リクライニング状態で支えがあれば姿勢を保てることがわかったことから、トイレに誘導して便座に腰掛けてもらうことに挑戦しました。それでも最初の時は、トイレに来たことが認識できていない様子でした。そこでスタッフが「トイレに座りましたよ」と声をかけたところ、一生懸命いきむ姿が見られ、排泄ができました。その後、トイレで排泄ができる回数が増えていき、カテーテルも外れました。スタッフが驚いたのは、排泄量の変化です。ベッドでおむつの中に排泄するときと比べて尿、便ともに目に見えて量が多くなりました。便通は3日に1度程度でしたが、毎回ご本人が「すっきりした」とうれしそうな仕草を見せ、それを見たスタッフも一緒に喜ぶという好循環も生まれていきました。
使用するTENAも状態の変化に合わせて変更しました。入所当初は日中にTENAスリッププラス、夜間はTENAスリップマキシを使用していました。トイレでの排泄が順調に行えるようになったことをうけて、使用する製品をトイレ誘導とベッド上交換の両方に対応できるTENAフレックスに変更。日中はTENAフレックスプラス、夜間はTENAフレックスマキシを使用するようになりました。

トイレでの排泄をきっかけに寝たきりを脱する
ご本人らしさが戻ることは周囲の喜びにもなる

トイレ誘導が離床につながり、日中に起きている時間が増えることも生活リズムを整えることにつながりました。ほぼ寝たきりの全介助に近い状態から、食事の時間は起きているようになり、食事が終わってもユニットで過ごす時間が増えていきました。面会に来られるご家族も、Aさんが起きていて、互いに顔を見ながら話ができることをとても喜んでいました。
単語から短い会話ができるということで、スタッフが積極的に話しかけていると、発語も少しずつスムーズになっていきました。寂しがり屋な一面があることもわかってきて、介助を終えたスタッフが側を離れようとすると「まだ行かんで(行かないで)」と引き留めるなど、自分の意思を伝えてくれるようになりました。トイレ排泄をきっかけに Aさんらしい生活を取り戻したことがうかがえました。

ご本人にとってよりよい排泄ケアが
スタッフのやりがいと負担軽減になる

一度は寝たきりになった方でも、トイレに行けそうならば一人ひとりに合わせた介助でトイレ誘導し、トイレでの排泄を継続させたい。それがきのこ荘様の考えです。ひとつの方法や考え方にとらわれず、失敗を恐れず柔軟に、積極的によりよい方法を探るのが、きのこ荘様の方針です。
自分でトイレに行ける方でも、少しでもパッドが汚れていたり、わずかでも漏れていたりすると「失敗した」と思い込み、トイレが不安になったり、苦手意識をもってしまうことがあります。トイレ誘導をしていても「申し訳ない」という気持ちになる方もいらっしゃいます。スタッフが「私がTENAを交換したいので協力してもらえますか?」「一緒にトイレに行っていただきありがとうございます」という態度で接することで、排泄ケアを受けることを「恥ずかしいこと」「申し訳ないこと」と感じさせないよう心がけています。それによって排泄が安定すれば、入居者様やご家族の喜びになり、スタッフにとっても負担軽減ややりがいにつながるという考えです。

一律にも決めごとにもせず
常に柔軟に最適な製品を探る

アセスメントとしては、入居後1週間ほど尿測をして排泄のタイミングや量を記録し、結果をユニット内で共有。数字だけでないその方の状態を観察します。
基本的には、自力歩行でトイレに行ける方には、まずパッド型のTENAコンフォートを試します。排泄のリズムや量がはっきりしない時は、適合する方が多いTENAコンフォートプラスなどの吸収ランクを試し、排泄量を見ながらサイズを調整します。
全介助の方ならTENAスリップを使ってみて、漏れがなければTENAフレックスに変えるなど、その都度状態を観察しながら、最適なものを使用することを目指しています。
排泄リズムは、ご本人の体格や健康状態、季節の変動、食べ物、飲み物による変化など、さまざまな要因と密接に関わっています。きのこ荘様では、体調や生活スタイルの変化に応じて最適なおむつに変えることは当然と捉えており、状態を見ながら現場の判断で随時変更しています。TENAアドバイザーのサポートも受けながら、ご本人にとってもより良いサイクルを常に模索するこの方法により、スタッフの負担も減り、コスト削減にもつながっています。

スタッフの自発的な取り組みから生まれる
食事の工夫や気持ちに寄り添うケア

できるだけ長くトイレでの自力の排泄を継続させるために、きのこ荘様では下剤の使い方や食事の工夫もしています。
たとえば浣腸を使用する中で、ご本人に違和感や不快感があったり、水様便が漏れてしまったりする場合、どうすれば改善できるでしょうか。きのこ荘様では、下剤の量を1滴ずつ調節して排便コントロールしたり、水分摂取を促すためにさまざまな食事や飲み物を試したりしています。歩ける方であれば、できるだけ立って歩く時間を増やすようサポートする。なかなか結果が出なくても、ご本人に負担がなく、ご家族の理解が得られるのであれば失敗を恐れず、よいと思うことを試していきます。また、腸内環境をよくするための食事をスタッフが調べ、オートミール、バナナやキウイ、小麦ふすまのシリアル、ヨーグルトを配合した「スペシャルボウル」を考案。腸の入り口、中間、奥の3段階でこれらの善玉菌の餌となる発酵性食物繊維をたっぷり含む腸活に良い食事として提供するなど、ユニットごとにスタッフの独自性に任せた工夫も採用し、成功事例は全ユニットに共有します。
試行錯誤する中ではうまくいかないことも出てきますが、それは失敗とは捉えません。また、今うまくいかなくても、そのやり方すべてが不適切ということではない場合もあります。
おむつや日常のケアに対して不快感や違和感があったときに、自分から伝えられる方ばかりではありません。その中で適切なコンチネンスケアを提供し続けるためには、排泄記録などのデータだけでなく、おむつの付着物やご本人の精神状態、日常での行動の観察が欠かせません。排泄とは一見関係なく思える言葉や行動でも、尿意や便意、おむつの違和感などから発生していることがあります。「今トイレに行きたいのかな」「何か違和感があるのかな」など、ご本人の訴えることに気づくこと、気持ちに寄り添うことを常に重視するきのこ荘様。みんなの前で「トイレに行こうか」と声がけしたり、失敗したときにスタ ッフがあわてて大きな声で状況を伝え合ったりしないよう、入居者様の尊厳を守ることも大切にしています。

私にとってのDignity

原田まゆみさん(施設長)

とても難しいことですが「こうすれば尊厳が守れている」というような、定型は存在しないことを忘れてはならないと思います。
たとえば「その人らしさ」という言葉も、本当の意味の「らしさ」を考えなければ意味をなしません。それどころか「らしさを考えている」ということで安心してしまって、形だけの尊重になっているかもしれない。よかれと思ってしていることが、相手にとっては価値観の押し付けになっているかもしれない。とても大事なことだから「らしさ」という言葉が多用されるわけですが、きれいな言葉、都合のいい言葉こそ、本来の意味を考える必要があるような気がします。
「その人らしさ」も「尊厳」も百種百通りです。介護にあたるうえでは、その人自身の尊厳のラインがどこにあるのかをつかんでいかなければいけないでしょう。そうして相手のことを考えることは自分のことを考えることにもつながります。相手の気持ちを慮ることは、同時に自分を知るきっかけなのかなと思います。自分の尊厳のボーダーラインはどこなのかを考えるのは意味深いことですね。


原田真輔さん(介護主任)

当たり前のことですが、相手の気持ちになって考えることかなと思います。基本は自分がしてほしくないことはしないということでしょうか。介護には非常にデリケートなものがつきまといます。本人にとって恥ずかしい部分を見せてもらわなければならないこともあります。いずれにしてもしなければいけないことだけれど、単にやるべき作業として行うのと、相手の気持ちを考えて行うのとでは、相手の感じ方は違うと思うのです。尊厳が守られているかどうかは、こちらが決めるのではなく、相手が感じることです。相手や状況に合わせた適切な声がけをしたり、相手がしてもらってよかったと思えるようなケアを提供していきたいと考えています。


高橋三恵子さん(ユニットリーダー)

いろいろなことが考えられると思うのですが、「自分だったら」という意識を忘れずに相手に接することが大切だと思っています。自分が歳をとって人にケアをお願いするときに、どんなふうに接してもらいたいか。正解はありませんが、それだけに、常にその点を考えて行動していきたいと思います。
たとえば「トイレ行こう」とみんなの前で声をかけるのではなく、耳元でそっと「おトイレ行きましょうか」と伝えるほうがよいと考えています。とはいえ、誰に対しても同じ考えではなく、同じ事柄でも人によって恥ずかしかったり、気になったりするでしょうし、まったく気にしないという人もいるでしょう。そんななかで、私なりに相手の尊厳を守る振る舞いをしていきたいですし、それが自分の尊厳を守ることにもつながっていくのかなと思っています。

きのこ荘

社会福祉法人新生寿会
特別養護老人ホーム きのこ荘(岡山県井原市)

認知症があっても、体が不自由でも「たったひとつの人生のあたりまえの生活」の実現を目指し、お一人おひとりに合わせたコンチネンスケアを実施。2005年よりTENAを導入。